味噌仕込みの「塩分濃度」のはなし
味噌は、塩と大豆、そして麹――たった三つの材料から生まれる、日本が誇る発酵食品です。ですが、その奥深さは、200年続く当蔵、塩屋醸造の職人たちをも悩ませるほど。なかでも味噌作りにおいて「塩分濃度」は、味・熟成・保存性のすべてを左右する、要のような存在です。
塩は“味”を整えるだけではない
塩は単なる調味料ではありません。発酵における制御装置のような働きをします。塩の濃度が高ければ、乳酸菌や酵母、その他の微生物の動きはゆるやかになり、じっくりと、深みのある味噌が育ちます。反対に塩分が低ければ、微生物の活動は活発になりますが、発酵のバランスが崩れやすく、傷みやすくなることもあります。
一般的に、しっかりと1年ほど熟成させるお味噌では、12%前後の塩分濃度で仕込むことが普通です。塩屋醸造でも塩分10~12%を基本とし、長期熟成でも美味しさを保てるように仕込んでおります。
近年では、塩分10%以下の減塩のお味噌も生まれていますが、仕込み方や保存環境や衛生管理にはより一層の気配りが必要になります。昔ながらの熟成させた美味しさは実現しにくいため、塩屋では現在過度に減塩を目指したお味噌を製造しておりません。
手作り味噌でおすすめの塩分濃度
手作り味噌でも塩分濃度は非常に大切です。初心者の方には、まず塩分12%をおすすめしています。発酵が安定しやすく、失敗が少ないためです。
特に、種水を加える場合、塩分濃度の計算が狂いやすいので注意しましょう。煮た大豆、米麹、そして茹で汁等で加えた水、これらを加味して、塩分を加える必要があります。
塩分濃度は、薄い濃度であれば100mlに対して1g加えることで簡易的に1%とすることがありますが、味噌の場合は大量の塩分を加えるため、総重量を計算して塩分濃度を考える必要があります。
◎お味噌の塩分濃度の計算
総重量=煮大豆+米こうじ+種水+塩
塩分濃度=塩/総重量×100
少し面倒ですが、仕込んだ時に正確に塩分濃度を測ることで、美味しいお味噌に仕上がってくれますよ。
味噌作りは「微生物との共同作業」。彼らが心地よく働ける環境を、塩という“手綱”で整えてあげることが、味噌作りの真髄なのです。
「塩の役割」を知る
「塩分◯◯%」という数字は、つい「しょっぱいかどうか」の目安としてのみ見てしまいがちですが、本来はそれ以上に、“発酵を育てる環境”を整える指標でもあります。
塩を加える量によって、働く微生物が変化していきます。適度に酵母や乳酸菌が活動していくことで生まれる味の深み。熟成がもたらす旨味と香り。そして一年後、蓋を開けたときに立ち上る、あのなんとも言えない「味噌の香り」。それは、塩と微生物が手を取り合ってくれた証です。
どうぞ、塩分のことを「敵」ではなく、「共に仕込む仲間」として、味噌作りを楽しんでいただければと思います。
文責:奥西